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執筆者の写真Tetuya Futigami

「やってみよう教室」レポート

更新日:1 日前






その演劇教室は、少し風変りだったかもしれません。

なにしろ教室のタイトルからして「やってみよう教室~自分の変化を楽しもう~」となっています。一体、何を「やってみる」んでしょうか?


この不思議な教室の主催は堺国際市民劇団で、講師は新たに劇団代表となったA級プロダンサーの木地環さんです。堺国際市民劇団は、障がいや年齢、国籍、舞台経験の有無に関係なく参加できる劇団で、木地さん自身も事故によって高次脳機能障がいとなり、左半身麻痺を負っています。

踊ることが全てだったという木地さんが踊れなくなり苦悩の日々を過ごす中で、それでもあきらめきれずにやってみようと劇団に飛び込んで、奇跡的な回復を遂げた。そんな経験から生まれたのがこの教室なのです。


▲主催の堺国際市民劇団代表木地環さん。高次脳機能障がいで左半身麻痺がのこっているのが信じられない美しいダンス。



取材に訪れたのは9月21日のことで、教室の開催は3回目とのこと。1回目の副題は「キレイに歩いてみよう」、2回目は「リズムにのって歩いてみよう」。そして3回目の今回は「踊ってみよう」。これまでの参加者は、みなさん何らかの障がいを抱えている方か、そのご家族だそうです。

一体、どんなレッスンが行われているのか、教室をのぞいてみましょう。



■イメージで体を動かす



▲冬の寒さを感じながら歩く。マスク越し表情は、ちょっと硬いかな?



この日も老若男女、多くの参加者が教室に集まりました。

参加者の前に立ったのは、スタッフとして木地さんをサポートする劇団Theatre Group GUMBOの皆さん。Theatre Group GUMBOは、主に海外の演劇祭で活動し、その受賞歴は両手では数えきれないほどという国際的な評価の高い劇団です。

そのスタッフの指導のもと、まずはウォーミングアップということで、最初にやったのは「川の動き」、それから「花火の動き」。イメージを浮かべて、その場で自分なりに体を動かします。

体がほぐれてきたら、今度は歩いてみます。それもやっぱりイメージを浮かべて。お題は「季節を感じながら歩く」で、春の匂い、夏の暑さ、秋の風、冬の寒さなど、各々が心に思い浮かべたものを感じながら参加者は思い思いに歩きます。

どうやら、頭にイメージを浮かべ、それを体で表現する。心と肉体の動きを連動させることが、このプログラムのポイントのようです。



▲相手の目をよく見て、合図を送ると……



と、思っていたら、次のプログラムは意表をついたものでした。

「花火をあげよう」というもので、スタッフを花火に見立てて、参加者が口でスタッフを操作します。参加者が「ひゅーーー」と声を出すと花火は空に向かい、「どん」と叫ぶと花火は爆発します。ただそれだけのことなのに、花火は簡単に打ちあがらないし、どんな花火になるかは千差万別。


▲「ひゅーーー」「どん!」やってみよう教室に花火が打ちあがります。


一体これはなんのトレーニングなんでしょうか? 「ちゃんと花火(相手)の目を見てあげて」というスタッフからのアドバイスが疑問を解くカギになりました。なるほど、これは意図を相手に伝える、コミュニケーションのトレーニングになっているようです。控え目な「ひゅー」、つい腕を大きく振りかぶっての「どん」、その人それぞれの個性で、自分が空に咲かせたいのはこんな花火なんだと伝えます。それを感じ取って花火が打ちあがっていきます。



■自分らしく踊って、みんな笑顔に



▲木地さんがダンスを披露。カッコよさにしびれます。「あんな風に踊りたい!」



参加者は小休止で壁際の椅子に腰を落ち着けると、空いた空間にダンサー木地さんが進み出ました。社交ダンスの世界で日本のトップを競っていたという木地さんが立つだけで、そこはステージになってしまいます。

タンゴ、ワルツ、サンバ、ジャイブ。色んな踊りのステップが披露されました。このステップの中から、みんなお気に入りのサンバの練習をひとしきりして、みんなで歩く練習に移ります。



▲みんな笑顔でレッスンを楽しみました。



「歩くのには目的があります。何もなしには歩きません。私たちは春夏秋冬のリズムの中に生きていて、自分の感情と動きはついてきます」

スタッフの言葉に、これまでの一連のプログラムが連動したものであることに気づかされます。

「何故前を向いて歩くのか。好きなものに向かって歩くんです」

指導をうけて参加者が歩く姿を見ると、やはり、この教室は演劇の教室だったのだと腑に落ちます。ただ歩くという行為の中でも、場面設定があり、イメージがあり、そこから生まれた感情で動かされている体には、観る人の心に訴えかける何かがあるように感じるのです。



▲相手の目をしっかり見て感情を伝えよう。



教室もいよいよクライマックスに近づいてきたようです。

次のプログラムからは、音楽がより重要になってきました。歌を歌いながら、踊り歩く。そして音楽に乗せてパートナーと一緒に踊る。このプログラムは今日習った全てが集約されていました。

パートナーと踊るとなると、どうしても決まったステップを踏んで、決まった動作でと思いがちですが、ここで披露されたのは、そんなことはまったくない踊りでした。お互いが目と目で意志を通じ合わせ、互いの思いで自然に体が動いてダンスになっていく。

自分が自分であるとき、人は自然に笑顔になる。ずっとみんな笑っている。みんな風になって、笑顔で踊り続けていたのでした。



▲教室に広がるダンスの輪!



教室終了後、参加者の方に感想を聞いてみました。


まずは切れのあるステップが見事だったくらもとさん。

――やってみよう教室を体験されて感想は?

くらもとさん「たのしかった。お酒飲んでなかったけど、がんばってテンションをあげました」



▲くらもとさん。



くらもとさんのパワーのあるダンスはハイパフォーマンスで教室で輝いてましたよ。続いては、ずっとにこやかな様子が印象的だったこいしさん。

こいし「一年で一番笑いました。お酒飲んでないのにテンションがあがった」

確かにテンションMAXで笑顔の花が咲いてましたね。



▲こいしさん。



お次は、こちらも大きな笑顔を教室に咲かせていたなおさん。

なお「とても楽しかった。先生みたいにひとりでも踊ってみたいなとおもいました」

車いすで参加のなおさんですが、夢がどんどん溢れてきていますね。



▲なおさん。



同じく、ほがらかな様子だったかめさん。

かめ「はじめて練習に参加できて、体を動かして楽しかったです。ステップをおぼえられたのがよかった」

実はかめさんはずっとカメラマン役を引き受けていたのですが、今回取材が入るということで、カメラマンからいち参加者になれたのだそうです。たしかにステップを踏む姿は熱心でしたね。





▲かめさんと木地代表。


最後は、こちらも、真剣な表情でのがんばりが目立っていたいわもとさん。

いわもと「先生の説明、話になっとく。演劇で目で見る方向が大事だというのがよくわかった。高次脳機能障がいで覚える、しゃべるがなかなかできないのですが、覚えてがんばります」



▲いわもとさん。


そうなのです。いわもとさんが言うように、「やってみよう教室」が終わっても、堺国際市民劇団は、今度は舞台に向けて活動をはじめるのです。まずは12月7日に梅田のスカイビルで開催される「チャレンジドふれあいフェスティバル」に参加。そして年が明けて3月29日には、木地環代表による旗揚げ公演が、堺市総合福祉会館ホールで予定されています。

今回の「やってみよう教室」の参加者の皆さんの多くは、この舞台に上がる気まんまんで、10月からはじまるお稽古にも引き続き参加されるようでした。読者の中で、参加されたいという方がいたら、ぜひ堺国際市民劇団に問い合わせてくださいね。


最後に、木地代表の感想は、

木地「みんなが楽しんでくれたのが嬉しかった」

と、参加者の皆さんに優しいまなざしを送っていたのでした。


堺国際市民劇団お問い合わせ先 sksg2019@gmail.com


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